今回は、有料老人ホームにおける「囲い込み」問題とケアマネジャーの役割について解説します。

厚生労働省が囲い込み防止に向けて検討会を発足させた背景には、一部施設による過度な誘導の懸念がありますが、一方で、日常的に必要以上の支援を行ってくださっている施設職員の方々も多く、現場に対する感謝の思いを忘れてはなりません。

こうした状況の中で、ケアマネには利用者の利益を最優先にした中立的な支援が求められています。

囲い込みとは?ケアマネが知っておくべき基本知識

囲い込みの定義とその実態

囲い込みとは、介護施設や事業者が利用者を自社サービスに過度に誘導し、他の選択肢を事実上排除する行為を指します

本来、利用者や家族が自由にサービスを選択できるはずの介護保険制度において、囲い込みは選択の自由を損なう行為であり、不適切なサービス提供や不利益につながる可能性があります。

たとえば、有料老人ホームに入所した利用者に対して、その施設が自社の訪問介護や通所介護を強く勧め、他の事業所との契約を妨げるといったケースが報告されています。
これは制度の趣旨に反し、行政指導の対象にもなり得ます。

ケアマネは、囲い込みのリスクを理解し、利用者の利益を最優先に考える姿勢が求められています。

なぜ囲い込みが問題なのか

囲い込みは利用者の生活の質を下げ、介護の質の低下を招く恐れがあります。

囲い込みによって選択肢が制限され、より適したサービスを受けられないケースが発生しやすくなります。
また、施設側の都合でサービスが決められると、利用者のニーズが軽視されることもあります。

囲い込みによって、通所サービスの回数が減らされたり、必要なリハビリサービスが受けられなかった事例もあります。

このような状況は利用者本人だけでなく、家族にも不満とストレスを与えかねません。
ケアマネは、こうした問題を未然に防ぐ役割を担っているといえるでしょう。

法律や行政の指導内容について

囲い込みに関しては、厚生労働省や各自治体からも厳しい指導が出されています。

介護保険制度の基本理念に基づき、中立・公正なサービス提供が求められているため、囲い込みのような不適切な誘導は制度の根幹を揺るがします。

実際、厚生労働省は介護保険法や運営基準等で「利用者に特定のサービスや事業者の選択を強制してはならない」と定めており、違反があれば介護報酬の減算や事業所指定取り消しの対象となることもあります。

ケアマネとして、法令遵守は当然の責務であり、囲い込みに対しては毅然とした対応が必要です。

囲い込みを防ぐためのケアマネの役割

中立的な立場での施設選定支援

ケアマネは中立的な立場で複数の選択肢を示し、利用者と家族が納得のいく決定ができるよう支援する必要があります。

ケアマネが特定の事業所を強く勧めたり、自分の所属法人に偏った提案をすると、囲い込みと見なされる可能性があり、利用者の信頼を失う要因にもなります。

中立性を保つことで、ケアマネとしての信頼性も高まといえるでしょう。

利用者・家族との信頼関係の築き方

囲い込み防止には、利用者と家族との信頼関係が不可欠です。

信頼関係があると、利用者や家族は気軽に不安や疑問を相談でき、施設やサービスに関する説明も真摯に受け止めてもらえます

月1回の定期訪問時に、ケアプラン内容やサービス事業者の選定理由を丁寧に説明することで、利用者の安心感が高まり、「この人なら任せられる」と思ってもらえる関係性を構築していくことが重要となります。

日々の対応や丁寧な説明の積み重ねが、囲い込みを未然に防ぐ土台となります。

施設との距離感と関係性の保ち方

ケアマネは施設と適切な距離感を保ち、癒着や利益相反を避ける必要があります。

過度な関係性は中立性を損なう原因となり、利用者に不利益を与える可能性があります。
また、倫理的な問題にも発展しかねません。

施設との適切な関係性の維持は、ケアマネの職務を全うする上で非常に重要となります。

現場で役立つ囲い込み対策の実践例

複数施設の提案と比較説明

囲い込みを防ぐには、複数の施設を比較しながら説明することが効果的です。

選択肢を提示することで、利用者や家族が納得したうえでサービスを選ぶことができ、信頼性のある支援につながります。また、ケアマネ自身の中立性も客観的に証明できます。

実際にケアマネが施設案内を行う際、「費用」「サービス内容」「立地」「スタッフの対応」などの観点から表形式で比較表を作成し、家族に配布して説明することがあります。
このような手法は視覚的にも分かりやすく、好評です。

公平な選択を促すことで、囲い込みへの疑念を払拭することが可能となるでしょう。

記録・面談記録の徹底で透明性を確保

面談や相談内容をしっかり記録することで、後のトラブル回避や説明責任を果たすことができます。

囲い込みと疑われる状況において、誰にどのような説明を行い、どのような選択肢を提示したかという「証拠」があれば、ケアマネの中立的姿勢を明示できます。

透明性の確保はケアマネ自身を守る手段でもあり、囲い込み対策に直結します。

他の専門職との連携によるチェック体制

ケアマネ単独では限界があるため、多職種連携により囲い込みのチェック体制を築くことが効果的です。

看護師や地域包括支援センター、行政担当者など、複数の専門職と情報を共有することで、偏った判断を防ぐことができます。

チームとしての支援体制が囲い込み対策の強力なバックアップになります。

トラブルを防ぐための心構えとケアマネの倫理観

倫理的ジレンマにどう向き合うか

ケアマネは日々の業務の中で倫理的ジレンマに直面しますが、自らの専門性と倫理観に基づいて判断する姿勢が大切です。

「法人の方針」と「利用者の利益」が食い違う場面では、どちらに重きを置くかが問われます。

ここでの判断次第で、囲い込みに巻き込まれるリスクが高まることがあります。

信念に基づいた行動は、自身の職業倫理を守り、利用者との信頼関係を築く礎になるでしょう。

家族の意向と専門職の判断のバランス

家族の希望に寄り添いつつも、専門職として必要なアドバイスを行うことが重要です。

時には家族の意向が、施設やサービス提供者の誘導によって形成されていることもあります。
そのまま受け入れるのではなく、背景を確認し、適切な情報提供を行うことで真の選択支援が可能となります。

「この施設にします」と即答した家族に対し、ケアマネが「他の選択肢も一緒に見てから決めましょう」と提案し、後に別の施設を選んだことで、結果的に費用面でもサービス面でも満足度が高かったということがあります。

家族と対話を重ね、正しい判断を促すことがケアマネの重要な役割といえます。

定期的な研修と自己チェックの重要性

囲い込み防止の意識を持続させるには、定期的な研修と自己点検が不可欠です。

制度の変化や社会的なニーズに対応するため、常に最新の情報と倫理意識をアップデートする必要があります。

たとえば囲い込みをテーマにした倫理研修を実施して、職員が実際に遭遇した事例を元にディスカッションする機会を設けることで、職場全体の意識改革につながることも考えられます。

ケアマネとしての成長と質の高い支援を続けるために、学びの姿勢を持ち続けることが求められます。

まとめ

有料老人ホームの「囲い込み」問題は、利用者の選択の自由を奪い、介護の質や信頼性に悪影響を与える深刻な課題です。

ケアマネジャーには中立性を保ちつつ、利用者・家族に寄り添った公正な情報提供と支援が求められます。

囲い込みを防ぐには、複数の選択肢を提示する比較説明、面談や説明内容の記録徹底、他職種との連携、そして何より職業倫理に基づいた判断が不可欠です。
また、日々の業務の中で生まれるジレンマにも、自分の信念と専門性をもって対応する姿勢が重要です。

定期的な研修を通じて意識を高め、自らを振り返る機会を持つことが、囲い込みに対する最大の予防策となります。

ケアマネ自身が信頼される専門職であり続けるために、常に「誰のための支援なのか」を考え行動することが大切であるといえるでしょう。

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