今回は、業務効率が劇的に変わる『F-SOAIP記録法』について、F-SOAIPの基本やケアマネ業務への効果、書き方のコツ、今後の展望について解説します。
F-SOAIPとは何か?
F-SOAIPの意味と起源
F-SOAIPとは、介護や医療の現場で活用されている記録様式で、「Focus(着眼点)」「Subjective Data(主観的情報)」「Objective Data(客観的情報)」「Assessment(アセスメント)」「Intervention/ Implementation(介入)」「Plan(計画)」を一連で記録する方法です。
この記録法は、アメリカの看護分野で発展した「SOAP」記録を基に、日本の介護現場でより実務的に活用できるように発展したものです。
たとえば、ある利用者が「最近食欲がない」と訴えた場合、Fにはその出来事のタイトルや焦点を記載します、Sに利用者本人の言葉や訴え、やOに客観的な事実や観察結果、その後、Aで評価し、「I」に具体的な介入内容、「P」に今後の計画を明示する流れを明記します。
こうした一連の流れにより、情報が一目でわかりやすく整理され、誰が見ても同じ理解を得られる記録になります。
F-SOAIPは、ケアの質とチーム間の情報共有を向上させるための、非常に有効な記録様式であるといえます。
従来の記録法との違い
F-SOAIPは、従来の「出来事の羅列型」記録法と比較して、F-SOAIPは構造化された形式で情報を整理する点が特徴的です。
以前は、介護記録といえば「何があったか」を時系列で記録する方式が一般的でした。
しかしこの方法では、情報が断片的になりやすく、後から見返しても「なぜその対応を取ったのか」「その後の変化はどうだったか」が分かりにくいという課題がありました。
たとえば、「○月○日 12:00 昼食時に残食あり。○○さん対応。」というような記録だけでは、なぜ残食があったのか、どんな気分だったのか、どのような支援がされたのかが不明です。
F-SOAIPでは「F:食事時の様子」、「S: 利用者本人が「最近食欲がない」と訴える」、「O:体重減少、残食量が増加」「A:気分の落ち込みによる食欲減退が疑われる」「I:声掛けをしながらゆっくり食事支援」「P:明日も様子を観察し記録」と記録され、状況把握と対応策が明確になります。
このように、F-SOAIPでは利用者の主観・客観情報から始まり、アセスメント・介入・計画へとつながる流れが記録されるため、ケアの連続性と精度が大きく向上します。
介護業界で注目される理由
F-SOAIPが介護業界で注目されているのは、「利用者本位のケア」や「多職種連携」のニーズが高まっているためです。
現在、介護業界では「科学的介護」「エビデンスに基づく支援」が求められています。
利用者の心身の状態をしっかりと評価し、必要な支援を論理的に構築するには、体系的な記録が必要不可欠です。
また、介護職・看護師・リハビリ職・ケアマネなど複数職種が関わる現場では、共通言語として使える記録様式が求められています。
厚生労働省もLIFE(科学的介護情報システム)の運用を進めており、記録の整備が重要視されています。
F-SOAIPはその流れにも対応できる形式で、ICT化との相性も良く、記録の標準化にも寄与すると考えられています。
F-SOAIPは、これからの介護現場が求める「利用者中心」「チーム連携」「エビデンス重視」に対応できる記録法として、ますます重要性を増していくと考えられます。
F-SOAIPがケアマネ業務にもたらす効果
情報の整理と共有がしやすくなる
F-SOAIPを使うことで、ケアマネは情報の整理と共有をより効率的かつ正確に行うことができます。
ケアマネジメント業務では、アセスメント、ケアプラン作成、モニタリングなど、膨大な情報を扱います。
その情報がバラバラだったり、書き方が統一されていなかったりすると、後から見直す際に理解しづらく、支援の質が低下する原因となります。
F-SOAIPは記録内容が6つの視点で整理されるため、誰が読んでも理解しやすく、情報の抜け漏れも防げます。
たとえば訪問調査の際に、「F:疲労感に関する相談」「S:最近疲れやすいと本人が感じている」「O:表情が暗く、体重減少も見られる」などと情報を分類して記録しておくことで、必要な支援内容を見逃すことがなくなります。
さらに、関係職種がその情報を基に対応する際にも、「どのような理由でその支援が必要とされたか」が明確になり、スムーズな連携が可能になります。
F-SOAIPにより、ケアマネ業務の情報整理が効率化され、チーム全体での情報共有も的確に行えるようになります。
チームケアの質が向上する
F-SOAIPを活用することで、チームケア全体の質が向上し、より一体感のある支援が実現します。
多職種連携が基本の介護現場において、情報伝達の質が支援の質に直結します。各職種がバラバラに記録を残すと、情報が断片的になり、見落としや誤解を生むリスクがあります。
F-SOAIPは記録の共通フォーマットとして機能するため、誰が記録しても同じ視点で情報を残すことが可能です。
たとえば、看護師がF-SOAIPで「F:夜間の排泄に関する相談」「A:夜間頻尿による睡眠障害が疑われる」「I:夜間のトイレ誘導回数を増やし、不安軽減のため声掛けを行う」と記録していれば、ケアマネはそこからアセスメントを深め、ケアプランに反映できます。また、リハビリ職がその情報を見て、排泄に関連した運動指導を加えるなど、チーム内での連携が一貫して行えるようになります。
F-SOAIPの活用は、職種間の認識のズレを防ぎ、統一した目標に向けたチームケアを実現する上で非常に効果的です。
アセスメントとケアプランの精度が上がる
F-SOAIPを導入することで、アセスメントの質が高まり、それに基づくケアプランの精度も向上します。
ケアプランは利用者の状態把握とニーズの正確な評価(アセスメント)に基づいて作成されます。F-SOAIPはそのアセスメントの根拠を記録として明確に残すことができ、計画が「なぜ必要か」「どう変化したか」を裏付ける資料になります。
たとえば、ある高齢者が転倒リスクを抱えている場合、F-SOAIPでは「O:歩行時のふらつき観察」「A:歩行時のふらつきにより転倒リスクが高いと判断される。環境要因や身体状況も影響している可能性あり。」「I:歩行器の使用を提案し、利用者に説明した上で導入。
使用方法について指導を実施。」などと記録され、ケアマネがそのリスクを踏まえて「環境整備」「見守り強化」といった支援を計画に反映できます。
また、プランの評価時にその効果がどうだったかを記録から検証できるため、モニタリングの精度も上がります。
F-SOAIPの記録は、アセスメントの裏付けとしても有効であり、より根拠あるケアプラン作成につながります。
F-SOAIPの書き方と実践のポイント
各項目の書き方と注意点
F-SOAIPは6つの項目それぞれに意味があり、正しく記録することで初めて効果を発揮します。
記録が曖昧だったり、主観と客観が混ざっていると、情報の正確性が損なわれます。
また、チーム内での情報共有にも支障が出るため、各項目の役割と書き方を理解し、使い分けることが重要です。
具体例
- F(Focus):
記録する場面の焦点や題名を簡潔に記載します。例:「最近の体調変化について」 - S(Subjective):
本人や家族の主観的な情報も含めて記録。例:「最近なんだか元気が出ない気がすると本人が訴える」 - O(Objective):
客観的事実、数値や観察による事実。例:「体温36.8℃、歩行時ふらつき確認」 - A(Assessment):F・S・Oを元にした専門職の判断。例:「体調の変化と不安感が見られ、不眠傾向が疑われる」
- I(Intervention):
どのような対応をしたかの記録。例:「夜間の見守りを強化し、声かけ支援を実施」 - P(Plan):
今後の対応策や観察ポイント。例:「1週間は毎晩の様子を記録し、看護師と情報共有」
それぞれの項目が正確に記録されることで、F-SOAIPは意味を持ち、実用的な記録法となります。
実務での使い方のコツ
F-SOAIPを日常業務に無理なく取り入れるには、ポイントを絞って効率的に記録することがコツです。
すべての業務に毎回F-SOAIPを使用しようとすると、記録に時間がかかりすぎて現場の負担になります。
そこで、重要なケースや状態変化があった時のみ使う、またはフォーマットに慣れるまでは簡略版で記録するなどの工夫が求められます。
たとえば、ケアマネがモニタリング訪問時にF-SOAIPで情報を取ることを基本とし、日常業務では『O・A・P』を中心に記録しつつ、必要に応じて他の項目を補足する方法もあります。
訪問介護員などが使いやすいように、『Oを音声入力』『IとPは決まったテンプレートを活用』などICTを活用するケースも増えています。
完璧を目指さず、柔軟に取り入れることでF-SOAIPは実務に活かしやすくなり、継続的な運用が可能になります。
記録ミスを防ぐ工夫
F-SOAIPでの記録ミスを防ぐためには、教育・チェック体制の整備と、チーム内での共通理解が不可欠です。
記録内容が曖昧だったり、FとOを混同していると、情報の正確性が損なわれます。
また、記録する側によって内容にばらつきが出ると、チーム全体のケアに影響が及びます。
多くの施設では、F-SOAIP導入時に研修を実施し、記録例やテンプレートを共有しています。
F-SOAIPの記録精度を高めるには、書き方の標準化と職員間の共有、教育体制が大切な要素です。
F-SOAIP導入による今後の展望
今後の普及と課題
F-SOAIPは今後さらに普及が進むと期待されますが、導入と定着にはいくつかの課題もあります。
記録の標準化という点では非常に優れていますが、現場には「忙しくて丁寧に書けない」「フォーマットが複雑に感じる」という声もあります。また、導入初期には職員の研修やICT環境の整備が求められ、組織的な取り組みが不可欠です。
一部の施設では、F-SOAIPを紙ベースで導入したものの、書く時間が足りず断念したケースもあります。
そこで近年では、タブレットや音声入力を活用した記録システムを導入し、記録作業を効率化する動きが加速しています。
また、厚生労働省のLIFE対応にもF-SOAIPが役立つとの期待から、各自治体でも研修会が行われるようになっています。
F-SOAIPの普及には、現場負担の軽減と教育体制の整備が鍵を握りますが、その効果は大きく、今後の介護業界において欠かせない記録様式になると考えられます。
まとめ
F-SOAIPは、介護や医療の現場で注目されている記録様式で、主観・客観情報からアセスメント、介入、計画までを一貫して記録できる点が大きな特長です。
ケアマネジメント業務においては、情報整理の効率化、チームケアの質の向上、ケアプランの精度向上といった多くのメリットをもたらします。
また、実際にF-SOAIPを導入した施設では、職員間の情報共有がスムーズになり、業務の一体感が生まれたという好意的な声も多く上がっています。一方で、導入初期には研修やICT環境の整備といった課題もあるため、段階的な導入と現場に合った工夫が求められます。
これからの介護現場では、エビデンスに基づく支援がより重要視されていく中で、F-SOAIPは「記録を活用した質の高いケア」を実現する有力な手段となるでしょう。業務改善やチーム連携強化を目指すケアマネにとって、F-SOAIPはぜひ取り入れたい記録法の一つであるといえるでしょう。
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