介護と生活困窮が重なるときの実情とは
増える介護離職と収入減の現実
介護を理由に仕事を辞める「介護離職」は生活困窮につながりやすく、早期の支援が必要です。
働き盛りの世代が親の介護を担うケースが増える中、仕事と介護の両立が難しくなり、やむなく退職を選ぶ人が後を絶ちません。
収入源を失うことで生活が不安定になり、介護費用の負担も重なることで困窮化してしまいます。
厚生労働省のデータによると、年間約7万人が介護を理由に離職しており、その多くが再就職に苦戦しています。
特に介護離職者の多くは40~50代で、再就職率は全体で約3割前後となっており、家庭内での責任も大きく、生活困窮リスクが高まる年代です。
ある男性は、認知症の母を一人で介護するために退職。しかし、失業給付終了後も再就職できず、生活保護申請に至りました。
介護離職は生活困窮の引き金となるため、制度的支援や職場の理解が不可欠です。
親の介護と自分の生活費の狭間で苦しむ人たち
親の介護に専念することで自身の生活が立ち行かなくなる人が増加しています。
介護が必要な親と同居している場合、介護の負担は精神的・身体的に加え、経済的にも大きなものです。
収入が十分に確保できない状態が続くと、日々の食費や医療費、光熱費さえままならなくなります。
親の介護と自分の生活維持を両立するには、早い段階で支援に繋がることが重要です。
自立支援制度がカバーしきれない現状
生活困窮者自立支援制度は存在するものの、介護との複合課題に対応しきれていない面があります。
制度は主に「就労支援」や「住居確保給付金」など個別支援が中心で、介護との複合的な困難に対する包括的な支援体制が十分でないのが現実です。
また、支援につながるには申請や面談など一定のハードルがあり、情報不足や心理的な壁が障害になります。
生活困窮と介護の複合課題には、より柔軟かつ訪問型の支援体制が求められます。
生活困窮者自立支援制度の仕組みと対象
制度の概要と受けられる支援内容
生活困窮者自立支援制度は、経済的に厳しい状況にある人が自立できるよう、包括的な支援を提供する仕組みです。
この制度は、単に金銭的支援を行うだけでなく、生活の再建や社会復帰を目指す「包括的な支援」を特徴としています。
たとえば、就労支援、住居支援、学習支援、家計相談、社会参加の促進など、幅広い分野での支援が受けられるようになっています。
代表的な支援内容には、「就労準備支援事業」や「一時生活支援事業」などがあります。
就労準備支援では、長期間就業していない方に対して、生活リズムの回復や基礎的な職業訓練を提供し、再就職につなげます。
また、住居がない、または失うおそれのある人には「住居確保給付金」が支給され、一定期間家賃を補助します。
この制度は、生活の立て直しに向けて段階的な支援を受けられるよう設計されており、多面的なアプローチが可能です。
利用するための条件と手続き方法
生活困窮者自立支援制度の利用には一定の条件と手続きが必要ですが、多くの人が対象となり得ます。
制度の対象は、生活保護を受けるほどではないが、日常生活や生計の維持に困難を抱える人です。
年齢や職歴、家族構成にかかわらず利用可能であり、働ける能力のある人を前提に、自立に向けた支援が行われます。
利用のためには、まず自治体の福祉課や生活困窮者自立支援窓口に相談します。
相談員との面談を経て、個別支援計画を策定し、必要な支援事業に結びつけられます。
書類としては本人確認書類、収入や家計の状況がわかる書類(給与明細、預金通帳など)が求められます。
なお、費用は基本的に無料で、支援の途中で変更や中断も可能です。
制度の利用はハードルが高いわけではなく、早めの相談が生活再建への第一歩となります。
福祉事務所・地域包括支援センターの役割
福祉事務所や地域包括支援センターは、生活困窮者支援制度への入口として重要な役割を担っています。
生活困窮者自立支援制度の主な相談窓口は、自治体の自立相談支援機関(多くは福祉事務所や生活福祉課など)です。
高齢者や介護を担う家族の場合は、地域包括支援センターが相談窓口となり、必要に応じて生活困窮者自立支援制度の窓口へつなぐ連携が図られます。
支援制度にスムーズにつながるためには、地域の福祉機関との連携が欠かせません。
介護との両立を支える具体的支援策
介護休業制度や介護保険の活用
介護と生活の両立には、介護休業制度や介護保険の活用が大きな助けとなります。
介護に直面した際に仕事を辞めるのではなく、一時的に休業することで、経済的基盤を維持しながら介護に取り組むことが可能です。
また、介護保険サービスを利用すれば、介護の負担を軽減でき、在宅での生活が続けやすくなります。
介護と生活の両立には、介護休業制度や介護保険の活用が大きな助けとなります。
介護休業制度では、最大93日間の休業が取得でき、雇用保険の要件を満たせば介護休業給付金(賃金の67%)が支給されます。
介護保険サービスは、要介護認定を受けた方が利用でき、訪問介護やデイサービス、ショートステイなど多様なサービスがあります。
就労支援や職業訓練も、介護者向けの配慮があり、地域の社会福祉協議会や包括支援センター、NPOなどがさまざまな支援を展開しています。詳細は、各窓口でご相談ください。
仕事を辞める前にまずは制度を調べ、介護と生活の両立を図る手段を検討することが重要です。
就労支援と職業訓練の制度
生活困窮者支援と並行して就労支援や職業訓練を受けることで、将来の自立につながります。
介護中でも、在宅ワークや時短勤務など柔軟な働き方を模索することで収入確保が可能です。
国や自治体が提供する職業訓練は、無料または低額で受講できる上、訓練中の生活費を支援する制度も整備されています。
たとえば、ハローワークを通じた「求職者支援訓練」では、パソコンスキルや在宅ワークに役立つコース、介護職向けのコースなど多様な訓練が用意されており、訓練中は一定の要件を満たせば「職業訓練受講給付金」が支給されます。
また、地域のNPOや社会福祉協議会が行う就労準備支援事業も活用できます。
自分に合った働き方を見つけるためにも、制度を活用してスキルを高めていくことが大切です。
社会福祉協議会など地域支援の力
地域に根差した支援機関との連携により、介護者の生活と心の安定が図れます。
社会福祉協議会(社協)は、相談支援から物資の提供、ボランティア派遣まで幅広い活動を展開しており、生活困窮や介護の現場に寄り添う支援が特徴です。
また、地域包括支援センターや自治体との連携も進んでおり、地域全体で介護者を支える体制が構築されています。
ある市では、社会福祉協議会が高齢者の買い物支援を行い、介護者が外出せずに済むよう配慮されています。
また、「介護者カフェ」などの居場所づくりを通して、介護者同士の交流やストレス発散の場が提供され、孤立感の軽減にもつながっています。
一人で抱え込まず、地域の力を活用することで、介護と生活の両立が現実的になります。
支援につながるために家族や地域ができること
孤立を防ぐための声かけと見守り
生活困窮や介護で悩む人を支援につなげるためには、周囲の積極的な声かけと見守りが欠かせません。
生活困窮者や介護者の多くは、自ら助けを求めることができず、問題が深刻化するまで支援を受けられないケースが多々あります。
地域住民や家族が日頃から関心を持ち、小さな変化に気づいて声をかけることで、早期支援につながります。
ある地域では、町内会が高齢者の見守り活動を定期的に実施し、一人暮らしの高齢者や介護者との対話を心がけています。
結果として、「最近顔を見ない」「体調が悪そう」などの情報をきっかけに、地域包括支援センターにつながり、必要な支援が早期に提供されたケースがありました。
「気づく」「声をかける」「つなげる」という基本行動が、支援への第一歩を生み出します。
支援制度の情報共有と相談体制の整備
生活困窮や介護に関する情報を地域で共有し、相談体制を整えることで、必要な支援にアクセスしやすくなります。
多くの人が制度の存在や内容を知らないまま困難を抱えています。
制度があっても知らなければ使えません。
地域での情報共有や定期的な説明会、福祉情報の発信があることで、支援を必要とする人が自ら動くきっかけになります。
市区町村によっては、福祉関係の情報をまとめた「暮らしの便利帳」や「介護ハンドブック」などを発行し、町内会や公民館で配布しています。
また、地域包括支援センターが出前講座として、町内会や学校、企業などで制度説明を行う取り組みも広がっています。
情報へのアクセス性を高めることは、地域ぐるみで支援を広げる第一歩となります。
住民同士の助け合いと地域ネットワークの重要性
住民同士の助け合いと地域ネットワークの構築が、支援が届きやすい社会をつくります。
公的支援には限界があり、制度の狭間で苦しむ人もいます。
そこで力を発揮するのが、地域住民による自発的な助け合いです。
日常的なつながりがあることで、困ったときに相談できる人が増え、孤立を防ぐことができます。
東京都のある区では、「地域福祉ネットワーク会議」を設け、民生委員やボランティア、医療関係者、福祉関係者などが定期的に集まり、困窮者や介護者の支援に関する情報を共有しています。
また、空き家を活用して「地域サロン」を設け、高齢者が気軽に集まり情報交換や相談ができる場が提供されています。
顔の見える関係が築かれた地域では、問題が顕在化する前に支援の手が届きやすくなります。
まとめ
介護と生活困窮が重なる状況は、誰にでも起こりうる現実です。
介護離職による収入の減少、親の介護と自身の生活の両立、そして支援制度の複雑さなど、複合的な課題に直面する人は少なくありません。
しかし、国や自治体が提供する「生活困窮者自立支援制度」や「介護保険制度」、地域の社会福祉協議会や包括支援センターなど、多くの支援手段が存在します。
これらを正しく理解し、必要なときに適切に活用することが、困難を乗り越える大きな力になります。
また、地域や家族の連携による見守りや声かけも、支援につながる大切な一歩です。支援を求める声が届きやすく、孤立しない社会づくりには、私たち一人ひとりの理解と行動が必要です。
「一人で抱え込まないこと」、そして「支援につながること」。そのためにできることを、地域と共に考えていきましょう。
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