訪問介護は、高齢者や障がい者が自宅で安心して生活を続けるために欠かせないサービスです。
しかし、現在、訪問介護事業所の人手不足や経営難が深刻化し、多くの利用者が必要な支援を受けられない状況にあります。

こうした課題を解決するため、立憲民主党と国民民主党が「訪問介護の緊急支援法案」を共同で国会に提出しました。この法案は、訪問介護の存続を支援し、サービス提供を安定化させることを目的としています。

本記事では、以下の3つのポイントを中心に、法案の内容や影響について解説します。

  1. 訪問介護の現状と課題:事業者の経営悪化や介護報酬の影響について
  2. 緊急支援法案の具体的な内容:支援の対象とその効果
  3. 今後の訪問介護への影響:事業者・利用者の双方にとってのメリット

この記事を読むことで、訪問介護を取り巻く現状と、この法案がどのような変化をもたらすのかが明確になります
特に、訪問介護に関わる方々にとって、今後のサービスの行方を知るための重要な情報となるでしょう。

はじめに

近年、訪問介護事業所の経営環境は非常に厳しく、多くの事業所が廃業休業に追い込まれています。

なぜ訪問介護事業所は厳しい状況にあるのでしょうか。
その背景には、以下のような理由があります。

  • 介護報酬の引き下げ
    2024年度の介護報酬改定において、訪問介護の基本報酬が約2.4%引き下げられました。
  • 人手不足
    訪問介護員の有効求人倍率は2022年度時点で15.53倍と非常に高く、人材の確保が困難な状況です。
  • 物価高騰
    燃料費や物価の上昇により、事業運営コストが増加しています。

これらの要因が重なり、訪問介護事業所の経営はますます厳しくなっています。
実際、2024年には訪問介護事業所の倒産や休廃業が過去最多のペースで発生しており、特に地方の事業所では深刻な状況が報告されています。

このような状況を受けて提出された「緊急支援法案」では、主に以下の支援策が盛り込まれています。

  1. 補助金の支給:訪問介護事業者に対し、速やかに補助金を支給することで、経営の安定化を図ります。
  2. 介護報酬の引き上げ:訪問介護の基本報酬を臨時に引き上げ、事業者の収益改善を目指します。

訪問介護とは?

訪問介護とは、介護スタッフが利用者の自宅を訪問し、日常生活を支援するサービスです。

訪問介護の基本的なサービス内容

訪問介護のサービスは、大きく分けて以下の3つがあります。

  1. 身体介護:利用者の身体に直接触れて行う介助です。具体的には、以下のようなものがあります。
    • 食事介助:食事の際の支援
    • 入浴介助:全身または部分浴(顔、髪、腕、足、陰部など部分的な洗浄)
    • 清拭:入浴ができない場合などに体を拭いて清潔にすること
    • 排せつ介助:トイレの介助やおむつの交換など
    • 歩行介助:自分の足で歩くことができるように介助を行うこと
    • 更衣介助:衣類の着脱など着替えの介助
    • 体位変換:ベッド上など床ずれ予防のための姿勢交換
    • 移乗介助:ベッドから車いすに移す際の介助
    • 移動介助:「起き上がる」「座る」「歩く」といった行為が困難な場合や、移動の際に介助をすること
  2. 生活援助:利用者が日常生活を送る上で必要な家事の支援です。具体的には、以下のようなものがあります。
    • 掃除:居間の掃除、ゴミ出しなど
    • 洗濯:衣類を洗う、干す、たたむ、整理まで
    • 食事準備:食材の買い物代行から調理、配膳、片づけまで
    • その他:爪切り・血圧測定・耳垢の除去など医療行為ではないもの
  3. 通院等乗降介助:通院や生活に必要な外出時に、車両への乗り降りをサポートするサービスです。

利用条件と手続きの流れ

訪問介護を利用するためには、以下の手順を踏む必要があります。

  1. 要介護認定の申請
    お住まいの市区町村の窓口で、要介護認定の申請を行います。
  2. 認定調査と審査・判定
    市区町村の職員などが自宅を訪問し、心身の状態を確認するための認定調査を行います。
    また、主治医の意見書も必要となります。
  3. 認定結果の通知
    調査結果や主治医の意見書に基づき、介護認定審査会が要介護度を判定し、市区町村から結果が通知されます。
  4. ケアプランの作成
    要介護認定を受けた後、ケアマネジャーが利用者の状況や希望に応じてケアプラン(介護サービス計画)を作成します。
  5. サービス提供事業者との契約
    ケアプランに基づき、訪問介護事業者と契約を結び、具体的なサービス内容や利用時間を決定します。
  6. サービスの利用開始
    契約が完了したら、訪問介護サービスの利用が始まります。

人手不足と事業者の経営状況

訪問介護の現場では、ヘルパーの不足が深刻化しています。
公益財団法人介護労働安定センターが実施した令和5年度「介護労働実態調査」によれば、訪問介護員の約81.4%が人手不足を感じており、そのうち約59.7%が「大いに不足」または「不足」と回答しています。

この人手不足の背景には、介護職の労働環境や賃金の問題が挙げられます。
厚生労働省の報告によると、介護職員の離職率は依然として高く、特に1年以内の短期離職者が多いことが指摘されています。

さらに、2024年度の介護報酬改定では、訪問介護の基本報酬が引き下げられました。
具体的には、身体介護や生活援助の各サービスで約2%前後の減少が見られます。

この報酬引き下げにより、事業者の収益が圧迫され、経営状況がさらに厳しくなっています。

介護報酬改定による影響

介護報酬の引き下げは、訪問介護事業者の経営に大きな影響を及ぼしています。
特に、小規模な事業所では、収益の減少により人件費の削減やサービス提供の縮小を余儀なくされるケースが増えています。
また、人手不足の中で業務負担が増加し、職員の離職がさらに進むという悪循環も見られます。

実際、2023年には訪問介護事業者の倒産件数が60件に達し、前年と比べて大幅に増加しました。

このような状況は、利用者にとってもサービスの質の低下や利用制限といった影響を及ぼす可能性があります。

法案提出の背景と目的

2024年度の介護報酬改定において、訪問介護の基本報酬が約2.4%引き下げられました。
この引き下げにより、特に小規模な訪問介護事業所の経営が悪化し、人手不足や事業所の倒産が相次いでいます。
このままでは、在宅で介護を必要とする人々が十分なサービスを受けられなくなる恐れがあります。

このような状況を受け、立憲民主党国民民主党は、訪問介護事業者の経営を支援し、サービスの継続を確保することを目的として「緊急支援法案」を提出しました。
この法案は、訪問介護事業者に対する速やかな補助金の支給と、訪問介護の基本報酬の早期引き上げを主な内容としています。

具体的な支援内容と対象

緊急支援法案」の主な支援内容は以下のとおりです。

  1. 訪問介護事業者への補助金支給
    訪問介護の基本報酬の引き下げを実質的に撤回・見直しする効果を持つ補助金を、できる限り速やかに訪問介護事業者に支給します。
  2. 基本報酬の早期引き上げ
    次回の介護報酬改定(令和9年度)を待たずに、できる限り早い時期に訪問介護の介護報酬基準を改定し、基本報酬を引き上げます。

これらの支援策により、訪問介護事業者の経営を安定させ、サービスの質と継続性を確保することが期待されています。特に、小規模な事業所や地方の事業所にとっては、経営の改善と人材確保の面で大きな助けとなるでしょう。

この法案の成立により、訪問介護事業者の経営環境が改善され、利用者が安心してサービスを受け続けられる社会の実現が期待されています。

利用者へのサービス提供の安定化

事業者の経営が安定することで、利用者にも以下のようなメリットが生まれます。

  • サービスの継続性
    事業者の廃業が減少することで、利用者はこれまで通りのサービスを受け続けることができます。
  • サービスの質の向上
    事業者が安定した経営を行うことで、スタッフの教育やサービスの質の向上に投資する余裕が生まれます。
  • 地域の介護体制の維持
    特に地方において、訪問介護事業者の存続は地域の介護体制の維持に直結します。
    事業者の安定は、地域全体の福祉の向上につながります。

このように、「緊急支援法案」は訪問介護事業者の経営支援を通じて、利用者へのサービス提供の安定化を図る重要な取り組みです。法案の成立により、訪問介護サービスの質と継続性が確保され、多くの利用者が安心して生活を続けられる社会の実現が期待されています。

おわりに

訪問介護の現場は、人手不足や報酬引き下げによる経営難が深刻化しています。これを受け、立憲民主党と国民民主党が共同で「緊急支援法案」を国会に提出しました。
本法案により、訪問介護事業者への支援が強化され、利用者のサービス継続が期待されています。
今後の動向に注目し、訪問介護を支える仕組みの充実を目指すことが重要です。

訪問介護の緊急支援法案のポイント

  1. 訪問介護の人手不足が深刻化
  2. 介護報酬の引き下げが経営を圧迫
  3. 立憲民主党と国民民主党が支援法案を提出
  4. 補助金支給と報酬引き上げを提案
  5. 事業者の存続とサービス継続が期待
  6. 今後の法案成立と実施に注目

訪問介護は多くの高齢者や障がい者にとって欠かせないサービスです。
本法案の行方を見守りつつ、私たちも介護の未来について考えていきましょう。

訪問介護は大切なサービスの一つですが、ケアマネには処遇改善加算などの加算もありません。
日々大変な中、皆頑張っているので、蚊帳の外から外して目を向けてほしいと切に願います。

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