今回は新型コロナウイルス治療薬が高額になる背景と、私たちが取れる対策について解説します。
コロナの薬が「高い」とよく耳にするものの、その理由が気になり、実際にどのような要因で価格が決まっているのかを調べてみました。
コロナ治療薬の価格が高いのはなぜ?
開発費用と研究期間の長さ
コロナ治療薬が高額になる大きな理由の一つは、開発に莫大な費用と長い時間がかかるためです。
新薬を開発するには、ウイルスの性質を解明し、安全かつ有効な成分を見つけ出す研究が必要となります。
これには通常、10年以上の歳月と数百億円規模の費用がかかります。
新型コロナウイルスの場合は緊急性が高かったため短期間での開発が求められ、より多額の公的資金や民間投資が投入されました。
例えば、米国の製薬会社が開発した抗ウイルス薬「レムデシビル」は、元々はエボラ出血熱用に開発されていたものを改良して使用していますが、その再開発にも追加費用がかかっています。
また、mRNAワクチンは製造コスト自体は比較的低いものの、高度な技術や設備、人材への初期投資、および知的財産権(特許)による価格設定が高額化研究機関や企業が先進的な研究設備と人材を投入する必要があり、それが薬価に反映されます。
結果として、開発にかかる膨大な費用と時間は、薬の価格を押し上げる主要因となっています。
特許と製薬会社の利益構造
新型コロナ薬が高額になる背景には、特許制度と製薬会社のビジネスモデルが大きく関係しています。
新薬を開発した企業は、一定期間その薬の独占販売権(特許)を持ちます。
特許期間中、企業は開発費の回収だけでなく、競争のない市場で利益を最大化するために価格を高めに設定する傾向があります。
また、製薬業界は研究開発費が非常に高いため、成功した薬からの収益で他の研究を賄う必要もあります。
ファイザーやモデルナなどが開発したmRNA治療薬は、それぞれが独自の技術と特許を持っていますが、革新的な技術であるため、それに伴う特許保護が競争を制限しているようです。
そのため、同じ種類の薬でも他社が製造することができず、競争が生まれにくいことから高価格が維持されやすいのです。
特許制度だけでなく、「市場独占」「公的資金支援」「国際的な規制」なども価格形成に影響を与えているようです。
緊急時の供給体制と価格設定
コロナ治療薬は緊急時に大量供給が必要となるため、その供給体制の維持にもコストがかかり、価格に反映されます。
パンデミックのような緊急事態では、短期間で世界中に医薬品を供給する必要があります。
そのための製造ライン確保、輸送手段の整備、在庫管理などに多大なコストが発生します。
2021年当時、ワクチンや治療薬を冷凍状態で輸送するために、COVID-19ワクチンでは超低温保存(-80°C以下)が必要なものもあり、製薬会社は特殊なコールドチェーン(冷蔵物流網)を構築しました。
このような体制の整備には多額の初期投資と運用コストがかかり、それが価格に転嫁されているのです。
緊急供給体制の維持と迅速な配布のために必要なインフラ整備費が、薬価の高騰を招いていることとなりました。
国や保険制度の影響とは?
公的保険でカバーされる範囲
日本では新型コロナウイルス感染症に関する医療費が一時的に公費負担されていたため、患者の自己負担が軽減されていました。
しかし、2023年5月以降、新型コロナが感染症法上「5類」に移行したことで、公費負担は段階的に終了し、通常の医療保険制度に基づく自己負担が適用されています。
日本を含む多くの国では、国民皆保険制度によって、医療費の大部分が保険で賄われています。
特に新型コロナウイルス感染症は、国が特例的に医療費の公費負担を行っていた期間もあり、患者の自己負担はほとんどありませんでした。
ただし、2024年4月以降、公費負担は終了し、自己負担割合に応じた通常の窓口負担が求められるようになっています。
国の助成と薬価の仕組み
国の助成金制度と薬価の決定プロセスが、薬の価格設定に大きな影響を与えています。
薬価は製薬会社が自由に決められるわけではなく、厚生労働省によって定められる公定価格制度に基づいています。
また、パンデミック時には、国が一定額を助成し、市場価格を安定させるための措置が取られることがあります。
こうした仕組みにより、薬の流通がコントロールされ、高騰を抑える役割も果たしています。
たとえば、抗ウイルス薬「モルヌピラビル」は日本政府が一定数を買い上げ、医療機関に無償提供した経緯があります。
これにより薬価は非公開で、一般市場での価格設定は行われず、患者の負担軽減と供給の安定が図られました。
ただし、このような特例措置はパンデミック時限定であり、その後通常体制へ移行しています。
先進国と発展途上国の薬価の違い
同じ薬であっても、先進国と発展途上国では価格に大きな差があり、国ごとの経済力や政策によって薬価が決まっています。
薬価は各国の政府や保険制度、製薬会社との交渉で決まるため、経済的に豊かな国ほど高めに設定され、発展途上国では安価に供給される仕組みが存在します。
例えば、アフリカ諸国では一部のコロナ治療薬やワクチンが、国際機関の援助により大幅に安く提供されています。
一方、米国などでは自由価格制のもと高額な価格がつけられており、医療保険のない人には大きな負担となる場合があります。
新薬開発にかかるコストとリスク
治験と承認プロセスの複雑さ
新薬の価格が高くなる理由のひとつに、治験と承認にかかる長い期間と複雑なプロセスがあります。
新薬開発には平均10~16年の期間と数百億~数千億円の費用がかかるとされています。
新薬を市場に出すには、まず動物実験、その後3段階の臨床試験(治験)を経て、安全性と有効性が確認されなければなりません。
臨床試験はフェーズⅠ(安全性)、フェーズⅡ(有効性・用量)、フェーズⅢ(大規模有効性)の3段階で構成され、成功率は約12%のようです。
新型コロナウイルス治療薬の一つ「パクスロビド」は、通常の開発期間(10年超)を大幅に短縮し、約2年で承認されましたが、フェーズⅢ試験では2,000人以上の被験者が参加したようです。
失敗のリスクが価格に反映される
治療薬開発では失敗がつきもののため、そのリスクも薬価に含まれています。
新薬開発には平均して10件に1件も市場に出ないと言われるほど、成功率が低いのが現実です。
開発途中で効果が確認できなかったり、副作用が強すぎたりして中止されるケースも多く、その失敗のコストは成功した薬の価格で回収される仕組みとなっています。
多くの製薬会社がコロナ治療薬を開発する中で、十分な効果が得られずに開発中止となったプロジェクトも多数存在します。
これらのプロジェクトにかかった研究費・人件費・設備費などは回収できず、成功したプロジェクトの利益で補う必要があるため、薬価が高くなるのです。
失敗のリスクを価格に織り込む必要があるため、新薬の価格はどうしても高く設定されがちになります。
大規模な生産設備の投資
新薬を大量に生産・供給するためには、専用の生産設備への大規模な投資が必要であり、それも価格に反映されます。
特に新しいタイプの薬(例:mRNA系など)は従来の製薬設備では対応できないため、新たな生産ラインや専用設備を用意する必要があります。
また、品質を保ちながら大量生産するには、GMP(適正製造基準)を満たすための厳しい管理体制も必要です。
新薬の生産体制を整えるための多額の初期投資が、価格の高さにつながっているのです。
私たちにできる対策とは?
ジェネリック薬品の利用促進
ジェネリック医薬品を積極的に利用することで、高額な薬の負担を大幅に軽減することができます。
ジェネリック医薬品は、先発薬(新薬)の特許が切れた後に製造される薬で、同じ有効成分・効果を持ちながらも価格は大幅に抑えられています。
ジェネリック医薬品は研究開発費が不要であるため、新薬よりも3~5割程度安価で提供されるようです。
新型コロナ治療薬においても、特許期間終了後にジェネリック版の抗ウイルス薬が登場することが見込まれています。
インドや中国などではすでに一部のコロナ薬のジェネリック生産が始まっており、価格が数分の一になるケースもあります。
こうした薬が日本でも普及すれば、患者の経済的負担は大きく軽くなるでしょう。
医療費助成制度の活用
高額療養費制度などの公的助成制度を活用することで、高額な薬の費用負担を減らすことが可能です。
日本には「高額療養費制度」や「公費負担医療制度」など、一定以上の医療費がかかった場合に自己負担額を軽減する仕組みがあります。これを利用することで、実際に支払う額を抑えることができます。
たとえば、1ヶ月間の医療費が10万円を超えた場合でも、高額療養費制度によって収入に応じた上限額以上の支払いが免除されます。
年収約370万~770万円の場合、自己負担限度額は約8万円程度となります。
医療費の公的支援制度を上手に活用することで、コロナ治療薬による家計への打撃を防ぐことができるでしょう。
正しい医療情報の理解と共有
正確な医療情報を得て、周囲と共有することで、不要な治療や過剰な不安を避け、適切な医療選択が可能になります。
インターネットやSNSには誤情報も多く、正確な情報が広まりにくい現状があります。
信頼できる医療機関や公的機関が提供する情報を参照することで、過度な治療や高額な薬を避ける判断にもつながることでしょう。
厚生労働省の公式サイトや、医師会・薬剤師会が提供する最新情報、WHOのガイドラインなどを確認することで、
「本当に必要な薬かどうか」
「どのような費用が発生するか」
といった知識を事前に得ることができます。
家族や周囲とも情報を共有することで、冷静な判断が可能になります。
正確な情報収集と共有は、高額治療薬に対する冷静な対処と無駄な出費の防止に役立つのです。
新型コロナ治療薬が高額な理由には、開発費用や特許、供給体制の整備など多くの要因があります。
さらに国の制度や医薬品流通の仕組みも影響しています。
ジェネリック薬や公的支援制度を活用し、正しい情報を得ることで、負担を軽減していきましょう。
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