今回は、昨年度に記録された訪問介護事業者の過去最多倒産の背景や、特に小規模事業者が直面する経営課題、そして今後の改善策について解説します。

訪問介護業界に何が起きているのか

昨年度の倒産件数が過去最多を記録

2024年度、訪問介護事業者の倒産件数が過去最多となり179件で過去最多、うち訪問介護が86件と全体の約半数を占め、いずれも過去最多を記録しています。

近年、訪問介護業界では慢性的な人材不足や制度的な制約、経済的なプレッシャーが重なり、特に経営基盤の脆弱な事業者にとっては存続が極めて難しい状況にあります。

加えて、物価高や燃料費の上昇など外部要因も経営を圧迫しています。

東京商工リサーチの調査によると、2024年度に倒産した訪問介護事業者は全国で過去最多を記録し、86件で過去最多、従業員10人未満が9割超(正確には83.1%、一部調査で90%)を占めています。
特に地方都市や過疎地域では、利用者の減少も重なり、事業の継続が困難となったケースが多く見られました。

この結果から、訪問介護業界は今、大きな転換点を迎えており、制度と支援体制の見直しが急務であることが明らかになっています。

小規模事業者が倒産の中心となっている理由

倒産の中心が小規模事業者に集中しているのは、構造的な経営脆弱性が原因です。

小規模事業者は人員も資金も限られており、経済的な変化や制度改定に柔軟に対応する余地が少ないため、経営リスクが高くなりがちです

また、運営に必要な報告や手続きの煩雑さが負担となり、本業の介護サービスに集中できないという側面もあります。

国の報酬改定により収益が報酬改定により基本報酬が2%強減少減少し、それを補うための新規利用者の獲得もできず、廃業を余儀なくされた事業所もあるようです。

このように、小規模事業者は外的・内的要因に非常に弱いため、業界全体の安定には中小支援策が不可欠です。

訪問介護の現場で起きている変化とは

訪問介護の現場では、サービスの質を維持する努力と同時に、厳しい経営状況とのバランスに苦しんでいます。

介護報酬の削減や規制強化により、1件あたりの訪問で得られる報酬が減る一方、訪問回数やサービスの質は維持しなければならないというジレンマが生まれています。

また、記録業務や制度対応の時間が増え、スタッフの負担も増大しています。

たとえば、ある都市部の訪問介護事業所では、1日の訪問件数が増加しても、移動時間や記録作業が増えたことで、スタッフの疲弊が進んでいます。

これが結果的に離職につながり、さらに人材不足を悪化させるという悪循環に陥っています。

訪問介護の現場は、利用者ニーズに応えつつ、持続可能な運営をするための支援と改善が求められています。

小規模訪問介護事業者の経営課題

厳しすぎる報酬制度とその影響

現行の介護報酬制度は、小規模な訪問介護事業者にとって非常に厳しい内容で、経営を圧迫しています。

訪問介護の報酬は、サービス内容や時間に応じて細かく設定されており、移動時間や事務作業などの「見えないコスト」が反映されにくい設計になっています。
特に小規模事業者は訪問件数が限られるため、固定費をまかなうのが難しくなっています

報酬制度の見直しなしには、小規模訪問介護事業者が安定して事業を継続するのは難しいと考えられます。

人材確保の難しさと採用コストの増加

人材の確保は訪問介護事業の生命線ですが、小規模事業者ほど採用に苦しんでいます。

小規模事業者では待遇改善や研修制度の整備が難しく、魅力的な職場環境を提供しにくいという課題があります。

ある中山間地域の事業所では、求人広告を出しても応募が来ず、月数万円をかけたハローワークや求人サイトでの募集も効果が出ずに撤退。
その結果、代表自らが現場に出て長時間労働を強いられ、体調を崩して閉業に至ったところもあったようです。

持続可能な訪問介護には、地域に根ざした人材確保戦略と行政の支援が欠かせません。

利用者数の減少による収益悪化

利用者数の減少が、収益構造の基盤を揺るがし、倒産の一因となっています。
都市部では競争激化、地方では人口減少・高齢化が進み、利用者数の減少が経営悪化の最大要因とされています

ある地域では、近隣に大規模な有料老人ホームが開業したことで、訪問介護の利用者が1年で3割以上減少しました。
新規利用者の獲得も追いつかず、経営が立ち行かなくなったケースも見られます。

訪問介護事業の収益は利用者数に大きく左右されるため、サービスの多様化や地域連携によるニーズの掘り起こしが重要となります。

制度的な支援とその限界

国や自治体の支援策はあるのか

国や自治体は訪問介護事業者への支援策を講じていますが、現場のニーズとは乖離していることが多いです。

支援内容の多くは補助金や研修の提供に限られ、日々の運営資金や人手不足への根本的対策には至っていません。
特に小規模事業者には申請の手間や情報不足によって支援が届きにくい傾向があります。

たとえば、ある自治体では「介護事業者安定化支援金制度」を設けていますが、申請条件が厳しく、複雑な書類作成が必要で、実際に活用できた事業所はごく一部にとどまっているようです。

制度はあるものの、それが現場で「使える」支援かどうかが問われており、より実用的で柔軟な支援体制が求められます。

支援制度が現場に届かない理由

制度があっても現場に届かないのは、情報の伝達不足と手続きの煩雑さが大きな障壁となっているからです。

多くの訪問介護事業者は少人数で運営しており、日々の業務で手一杯です。
支援制度の情報収集や申請作業に時間を割けないケースが多く、結果的に制度そのものが活用されていません

福岡県の物価高騰対策支援金も郵送申請のみで、情報伝達や申請手続きの煩雑さが課題となっているようです。

支援制度を「実際に利用される制度」にするためには、周知方法の改善と簡略化が必須です。

制度改善に向けた動きと業界の声

訪問介護業界からは、制度の柔軟性と現場の声を反映した政策作りを求める声が高まっています。

現場では、制度の一律適用や厳格なルールが逆に支援の妨げになっているという認識が広がっており、必要な見直しを行う仕組みの導入を求める声が強まっています。

日本介護支援専門員協会や全国訪問介護事業者連絡会では、地域事情に応じた加算制度の見直しや、簡易な支援申請システムの導入を政府に要望しています。
一部自治体では試験的にオンライン申請システムを導入するなどの動きも見られ始めているようです。

制度改善に向けた動きは始まっていますが、全国的な標準化と迅速な導入がなされなければ、現場の疲弊は続くと考えられます。

今後の訪問介護をどう支えるか

地域で支えるネットワーク構築の必要性

訪問介護を持続可能なものにするためには、地域全体で支えるネットワークの構築が必要です。

訪問介護は、単独の事業者だけで成り立つものではなく、医療機関、福祉施設、地域住民などとの連携が重要です。
地域ぐるみで支える仕組みを作ることで、事業の安定性とサービスの質が向上します。

ある地方都市では、地域包括支援センターを中心に、介護事業者、医師、民生委員、ボランティア団体が連携する「地域ケア会議」を月1回実施しています。
情報共有や支援の分担を行うことで、訪問介護事業者の負担が軽減され、倒産リスクの低減にもつながっています。

地域資源を活用したネットワーク体制は、訪問介護事業の生き残りと地域高齢者の安心に直結する取り組みとなるでしょう。

経営モデルの見直しと多角化の可能性

訪問介護の経営を安定させるには、従来のモデルにとらわれない柔軟な経営戦略が求められます。

訪問介護だけでは収益を上げにくい構造にあるため、事業の多角化やICTの導入、法人格の見直しなどで経営の柔軟性を持たせる必要があります。
特にICTの活用は人手不足の緩和にもつながります。

訪問介護に加えて訪問リハビリや配食サービスを展開し、地域ニーズに応じた総合的な在宅支援を実施しているところもあります。
また、タブレット端末での記録入力やスケジュール管理を導入し、業務効率を向上させています。

変化の激しい介護業界では、時代に合わせた経営の柔軟性と多角化が、持続可能性を高める鍵となります。

利用者・家族・事業者ができること

訪問介護の持続可能性は、利用者や家族、事業者が一体となって支え合うことにかかっています。

事業者だけでなく、利用者やその家族も介護の現場に理解と協力が必要です。
コミュニケーションの密度を高め、信頼関係を築くことで、安定したサービス提供が可能になるでしょう。

利用者の家族が訪問介護のスケジュールや提供内容を正しく理解し、スタッフと定期的に情報共有を行うことで、トラブルを未然に防ぎ、スタッフの業務効率も向上します。
結果として、事業所の継続にも貢献できます。

利用者・家族・事業者の三者がパートナーとして協力することが、訪問介護を将来にわたって守るための重要な要素となるでしょう。

まとめ

2024年度、訪問介護業界では過去最多の倒産件数が記録され、その大半が小規模事業者であることが明らかになりました。

この現象の背景には、厳しい報酬制度、人材確保の困難、利用者減少による収益悪化といった多くの経営課題が存在しています。

また、制度的な支援が存在するにもかかわらず、現場への周知や活用のハードルが高く、実際に支援が届かないケースが多数見られました。

こうした状況を改善するには、支援制度の見直しと現場の声の反映が急務です。

これからの訪問介護を支えるには、地域での支え合いや事業の多角化、ICTの導入などによる柔軟な経営が求められます。

さらに、利用者やその家族との連携と理解も、訪問介護事業の安定に大きく寄与する要素となります。

今後、誰もが安心して在宅で暮らし続けられる社会を実現するためには、訪問介護を取り巻く環境を整えることが不可欠です。業界全体での連携と、地域社会全体での支援が求められる時代に突入しているといえます。

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