今回は、ケアマネ業務の現状と制度上の問題点、そしてその背景について解説します。
居宅ケアマネジャーに関する不透明な実態や制度上の歪みがたびたび話題になっていることを受け、その原因と現場の声を深掘りしたいと思い、記事にしました。
ケアマネ業務の本来の役割とは
利用者本位の支援計画とは何か
ケアマネージャー(以下ケアマネ)は、要介護者や家族の希望に沿った支援計画を立てる専門職です。
基本にあるのは「利用者本位」の考え方で、本人の意志や生活背景を十分に尊重したプランを作ることが求められます。
しかし、現場では時間的制約や事業所の方針により、理想通りのケアプラン作成が難しいケースも少なくありません。利用者の声が届かない支援が、結果として不満や不信感につながることもあります。
例えば、一人暮らしの高齢女性が「外出支援をしてほしい」と希望していたにもかかわらず、効率を優先するケアマネによって在宅支援中心のプランに変更された事例もあります。
利用者本位とは、単に「希望を聞く」だけでなく、希望を尊重しながら実現に向けて柔軟に考える姿勢が必要です。
ケアマネが果たすべき中立的立場
ケアマネは、特定の事業所に偏らず、利用者にとって最適なサービスを選ぶ中立的な立場にあるべきです。
ところが、実際には特定のサービス事業所との関係性や施設内のしがらみにより、中立性が揺らぐことがあります。
本来の役割を果たすためには、どんなに親しい事業者であっても、質や相性に問題があれば選択を見直す勇気が必要です。
あるベテランケアマネは、長年付き合いのある訪問介護事業所の対応に疑問を持ち、利用者の不利益を避けるために契約を変更しました。
こうした判断は、中立性と職業倫理を守るケアマネのあるべき姿と言えます。
現場で求められる倫理観と判断力
ケアマネには法令遵守と職業倫理の意識が強く求められます。
しかし現実には、加算取得や事業所都合のケアプランが優先されるような環境も存在しています。
倫理観とは、マニュアルではなく、自身の中にある「正しいかどうか」を判断する力でもあります。
実際、あるケアマネは、明らかにサービス過剰なプランに加算をつけるよう求められましたが、「利用者の生活に必要ない」として断ったケースもあります。
現場で求められるのは、日々の忙しさに流されず、自らの判断軸を持ち続ける姿勢です。
闇として語られる問題点
利用者不在のケアプラン作成
多忙な業務の中で、「書類を整えること」が目的となり、本来の「利用者の生活を支える」視点が薄れてしまうことがあります。
結果として、利用者の希望や声が反映されないプランが出来上がることもあります。
例えば、実際にあった例としては、家族の意見ばかりが優先され、本人が望まないデイサービスに通わされていたケースがあります。
こうした状況は、利用者と家族、ケアマネの信頼関係を崩しかねません。
原点に立ち返ることが重要です。
介護事業所との癒着とその背景
居宅ケアマネは、介護事業所と密に連携して支援を行いますが、その関係が度を越えると「癒着」と呼ばれる状況が生まれます。
これは事業所からの営業的圧力や「紹介による優遇」などが背景にあります。
倫理的にはもちろん、利用者の利益を守る上でも、こうした癒着は問題です。
ケアマネには毅然とした対応が求められます。
ノルマや加算取得への過度なプレッシャー
多くの事業所では、加算の取得や業務効率を重視するあまり、ケアマネに過度なノルマを課している実態があります。
その結果、本来の業務ではなく「数値管理」に意識が向いてしまい、利用者との関係構築が疎かになるリスクがあります。
現場では、「月○件以上のケアプラン作成」「モニタリングの報告率○%以上」など、実務以上の成果を求められることも。
このような圧力の中で、精神的に追い詰められ離職を選ぶケアマネも少なくありません。
なぜ問題が起きるのか?構造的な課題
人員不足と過重労働の現実
ケアマネは全国的に不足しており、一人当たりの担当件数が多くなる傾向にあります。
これが業務過多や質の低下を招いています。
特に都市部では月40件以上を担当するケアマネも存在し、時間的余裕がない中での支援は、どうしても形式的なものになりがちです。
人手不足は、質の高い支援を継続する上で大きな障壁となっています。
ケアマネの評価制度とインセンティブの問題
現在の評価制度では、利用者満足度や支援内容の質よりも「件数」「加算取得」などの数字が重視される傾向があります。
この制度設計が、形式的で表面的な支援を助長している可能性があります。
あるケアマネは「数字を追うことが業務の中心になり、いつの間にか利用者の顔が見えなくなっていた」と話します。
本来の役割を見直すためにも、評価のあり方そのものを再検討すべき時期に来ています。
組織風土や指導体制の欠如
現場では、新人ケアマネへの教育や倫理指導が十分に行われていないことも、問題の一因です。
また、指導者自体が疲弊しており、組織内に健全な風土が育ちにくい環境もあります。
職場文化が閉鎖的で、意見を言いにくい雰囲気の中では、不正や逸脱行為が見過ごされやすくなります。
ケアマネ同士の相談や学び合いの場を整えることが、質の向上と問題の予防につながります。
まとめ
居宅ケアマネの「闇」と言われる問題の多くは、個人の資質に帰するものではなく、制度や現場の構造的課題に起因しています。
本来の利用者本位の支援を実現するためには、ケアマネ自身の倫理観や判断力の強化に加え、制度改革や職場環境の改善も不可欠です。
この現実を理解し、広く社会で議論していくことが、より良い介護支援の第一歩となります。
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